横綱・日馬富士（33）の暴力問題は、日本相撲協会への引退届提出という決着をみた。だが、騒動が収束する気配はない。
暴力を受けた前頭・貴ノ岩（27）の師匠、貴乃花親方（45）に不穏な動きがあるというのだ。「貴乃花の乱」はさらに過熱するのか。

　横綱の引退は人それぞれだが、ある種の美学が貫かれているものだ。
11月29日の横綱・日馬富士の電撃的な引退も、潔さという点では歴代の横綱に負けなかったが、聞きようによっては持って行きようのない恨み節とも思える。

　師匠の伊勢ケ浜親方（元横綱旭富士）は、およそ１５０人もの報道陣が詰めかけ、テレビも生中継した引退会見でこう言って宙をにらんだ。

「（日馬富士が）酒癖が悪いとか、乱暴するとかいったことは、私自身、見たことも、聞いたこともない。
今回、なぜこうなったのか、ただただ、不思議というか、残念です」

　さらに、こうも述べた。

「私は全部、筋道を通して、キチンとやってきました。
（暴行事件を）知ってすぐに（相手側の貴乃花親方にも、相撲協会にも）謝罪しました。電話でもしました。キチンとやってきました」

　さらに異様だったのは、当事者の日馬富士の発言だ。
被害者の前頭・貴ノ岩にはひと言も謝罪の言葉がなく、
10月25日の夜、モンゴル会の２次会が行われた鳥取市内のラウンジで起こった暴行事件に初めて触れて、次のように語ったのだ。

「先輩横綱として、弟弟子の礼儀と礼節がなっていない（ときに）、それを正して、直して、教えていくのが先輩の義務だと思っています。
（私は）弟弟子を叱ったが、彼を傷つけ、世間を騒がせてしまった。行き過ぎたことになってしまった」

　一時は「ビール瓶で殴った」などの情報や臆測が流れ、後に“凶器”がカラオケのリモコンと判明した暴行問題。
ところが日馬富士は、誤った言動をした弟弟子をつかまえて兄弟子が指導しただけ、というごく単純な「同国人愛」の構図に描き直してみせたのだ。



相撲協会追い込む「貴乃花の乱」　「日馬富士引退」の次　白鵬にも波及？
https://mainichi.jp/sunday/articles/20171204/org/00m/050/001000d

「日馬富士の暴力を放置した」

　この師弟の恨みの矛先はどこに向けられているのか。
暴行問題発生以来、周囲の声におよそ耳を貸さず、自らが属し、
理事も務める日本相撲協会とも対決姿勢を見せてはばからない貴ノ岩の師匠、貴乃花親方（元横綱）であることは明らかだ。

　それにしても、驚くのはついに横綱のクビまで取ったこの貴乃花親方のかたくなさだ。
何がこんなに貴乃花親方を怒らせ、過激な行動に走らせているのか。
沈黙してきた貴乃花親方は11月26日の九州場所千秋楽の夜、部屋の祝勝会で約１００人の後援者を前に、初めてその胸中を明かしている。

「（暴行問題が）どのような状況で行われ、誰が被害者で、誰が加害者か、正当に裁きをしていただかないといけない、というのが巡業部長としての責任です」

「正当」という言葉がキーワードだ。貴乃花一門の親方がこう解説する。

「貴乃花親方は相撲協会の調査によって、暴行問題が矮小(わいしょう)化されるのを警戒している。
過去、そういうことの連続でした。だから、貴ノ岩の事情聴取にもガンとして応じないのです。
上から目線で言いくるめられて、日本人並みに日本語を理解できるわけではない貴ノ岩がうっかりハイと言えば、それでおしまいですから」

　横綱のクビを取るという一応の成果をあげたのだから、これで貴乃花親方は怒りを収めてもいいはずだ。
だが、貴乃花一門の内情に詳しい元力士は「とんでもない」と首を横に振る。

　元力士によると、貴乃花親方は、今回の暴行事件を日馬富士が貴ノ岩を殴ったという単純な図式ではなく、
その場にいた白鵬や鶴竜の両横綱、大関・照ノ富士ら、モンゴル人たちによる集団暴行と見ているという。

「白鵬は場所中に報道陣に『暴行があったのは事実』
『（シャンパンの）瓶も手に持ったものの、水滴で滑って落とし、私がすぐ外に連れ出した』と話していましたが、問題はそのタイミングです。
貴ノ岩が数十発殴られている間、制止することなく横綱の暴力を放置し、周囲でずっと見ていたわけですから。
貴乃花親方は、モンゴル人力士が集団で貴ノ岩を傷つけたと見ているのです」

　つまり、貴乃花親方の目には、白鵬や鶴竜は手は出していないものの、それなりの責任があり、同罪と映っているようなのだ。
「貴乃花の乱」第２幕である。元力士がさらに続ける。

「だから、その罪を問う覚悟です。
いまの貴乃花親方は心酔していた大鵬親方が４年前、北の湖親方が２年前に亡くなり、周辺に止められる人は誰もいない。
とことんやる気でいますよ」

　日馬富士だけでなく、白鵬や鶴竜のクビも狙っているというのだ。ただごとではない。
それでは、貴乃花親方の「モンゴル嫌い」はどこからきているのか。

　大相撲を長年取材しているあるジャーナリストは「ひと言でいえば、相撲道の違いだ」と見ている。
このジャーナリストによると、貴乃花親方は、相撲を通じて自分の生き方を追求した、いわば正当派。
対して、モンゴル人力士は日本にプロのアスリートとして稼ぎに来ているため、勝つことに異常にこだわり、かつ手段も選ばないという傾向がみられるという。